|
一
昨年度の石曾根主将より受けついだ部の現状及び所感をのべさせて戴き、諸先輩のご鞭撻並びに御指導を切にお願い申し上げます。
部員は現在大学32名〔中休部3名〕高校50名で、役員は大学の部では、主将と主務を中心に、学生連盟、三田会員及び記録〔主として試合の記録・部員会の記録を受け持つ〕にチーフ各々1名、4年が当たり、それにバイス〔3年生〕がそれぞれにつき、副将だけ4年進級の者と新3年のものと2人居ります。更に三田と日吉、工学部〔小金井〕に分かれて居ります関係上、日吉に連絡員を2人、工学部に1人、計3名がいます。医学部は今の所、三田会の係りが兼ね、高校は、主将、副主将各々1名づつで、体育会全体役員会幹事は昨年迄5名でしたが、今年より2名に減らされ非常に残念に思って居ります。
現部員のうち高校時代県外遠征に出たものは5名を出ず、又高校にて相当基礎をつんだ選手は少なく、6大学リーグ戦に必要な7チームを作るのにさえ、困難な位であります。兎に角、無名プレーヤ、初心者が大半で、これを養成せねばならず、昨年の正選手が4年を中心にして構成されていた関係上、止むを得なかったというものの、何故もっとやっておかなかったのかと、自責の念にせめられて居ります。これにはどうしても3年計画を立てて、慶応高校乃至は普通部、中等部の養成しか道はないと思います。入学困難のため思う様に選手が入らないのは私の部に限ったことではありませんし、なんとか部員でもってやり遂げたいと思います。兎に角本年度はより一層拍車をかけてやりたいと思っています。先輩にはご多忙中をしばしばお出掛け下さり感謝致して居ります。が尚今後ともたとえ数十分でも結構ですから、是非きて見て頂きたいと念願致しております。
今年度は、このようにプレーヤ欠乏とはいえ、何とか盛り返し、少なくともその基礎を作り上げたいと思っています。それには精神技術両面にわたる訓練が必要であることは申し上げるまでもなく、ここに練習日程の方法、義務練習、及び合宿練習の方法に改善の余地があると考えます。今の所、先づ、春のトレーニングでもって、気分の転換をはかる意味で2月19日から1週間、朝7時から約2時間実施しました。それから3月26日から10日間、鐘紡洲本工場のコートをお借りして合宿練習をやる事になって居ります。前半は、岩井監督と先輩川野氏、後半には先輩呉氏が御指導下さる事になっています。それに試合が非常に多いのは、今に始まった事ではありませんが、色々と研究して、特に精力を集中すべきものを選びたいと思っています。各試合については前年度会誌に説明されていますので省かせて戴きます。
最後に慶応高校は神奈川県の方に加盟し、全国的にレベル高き神奈川県の高校群にあってダークホースと見られるようになり、2・3人ばかり指導如何によっては、将来有望なものも居り、春夏2度の合宿を始め相当張り切っており此処3年 早慶戦には勝ち続けています。
二
此度14名の大量の卒業生を送り、昨年の正選手の中、残るもの殆んどなく、その将来は全く暗タンたるものである事は我々以上に先輩諸氏の憂慮置く価わざる所とお察し致しています。かくの如く我々は現在最大の苦窮へと追い込まれつつありますが、私はこの事実を悲観的に見るよりもむしろ将来発展への要素として楽観的見地より取り上げてみたいと考えています。
苦労というものが個人でも、その活力を育て上げるとよく言われてきて居ります。この点、昨年度は上級生に頼りすぎて居て恰もヌルマ湯につかりなかなか出られないといった状態でありましたし、現在も又然りであります。このヌルマ湯から飛び出せない意気地なしになりたくないのは誰しも同じ事でしょう。先日のロードワークは確かに出席者20名を下らなかったものの部員の中に若干の意気地なしが見られたことは残念でした。犠牲者を出したくないといってゆるゆるやっていたのでは、もともとというよりもマイナスで風邪を引いてしまう。思いきって飛び出して着替えて、もともとなので、更に思い思って冷気を幾分でも被れば始めて風邪を恐れぬ体になっていきます。余り感心した例ではありませんが、斯様なわけであのトレーニングも朝7時という様な時刻を選んだのであります。
たしかに今迄の状態に有ったものには楽ではなかったでしょう。心身の鍛錬という点から云えば、寧ろ当然と云えましょう。軟庭にはこんな事必要はないと云う人もあるでしょう。軟庭に掛かるトレーニング必要なしとする人に部活動がリクレエーションだけではないという事をよくよくこの際再出発に当たって考えて戴きたいのです。
体力の相違云々という人もおありでしょう。しかしハンディをつけない方が各人の目的を達成することが出来るでしょう。その人達はこの点で、より苦労を苦痛をかんずるでしょうが、少なくとも身体を壊すほどの事はやってはいませんし、規則正しい生活をすれば、むしろより丈夫になり、又体力に自信を持てるようになれるでしょう。身体を大切にしすぎる余りびくびくやっているのではかえって病気になってしまう。自分の例で恐縮ですが、ある程度云えること思ってますことは、勿論、体が出来る前とは違うと思いますが、病弱だったものがスポーツに熱中しているうちにいつとはなしに丈夫すぎるくらいになったのです。病気はある程度精神的なもので有り歯を食いしばってやっているうちに体力も出来るものです。半分以上出来上がっている体で、客観的に見て健康だと思われる人で身体が弱いと自称する人はむしろ自分自身を過小評価しているのではないでしょうか。そんなにも弱い身体なら運動部にはいろうなどとは考えなかったに違いありません。心身の鍛錬を志して入った人なら、大丈夫だと思います。むしろ、努力が足りないのではないでしょうか。ハンディキャップをつけない方がそのようないわゆる弱い人にとって所期の目的たる心身の鍛錬に副得るものと思います。
今年の正選手の不足は、去年までの責任者や幹部だけの責任ばかりでなく、私達残されたもの全部の責任でもあります。皆の人々がこの気持ちに徹したとき、最も効果があがる事は疑いの余地がありません。積極的な態度協力を切にのぞみます。若しこれに不満な方は形はどうであろうと追いまくるつもりでいます。建設的な意見があれば、普段から幹部に、連絡員に云って戴きたい。消極的な態度はやめてもらいたいと思います。私たちの部だという気持ちでやって戴きたいと念願しています。こう申しますのも決して今迄にこの気持ちがなかったというのではありません。云われるのを又おしえてくれるのを待って居る人が余りにも多すぎたのではないかと思うからです。積極的にやってもらいたいという意味で決定方針には自分の方から進んで、若し役員が生ぬるいと思ったら、いくらでも つるし上げてください。かかる部員と共にありたいと考えています。恐らくいや必ずや今年は全員苦しい道を歩み続けることでしょう。最後まで共に頑張ってください。実社会は部内で想像するほど生易しいものではないと思いますが、身をもって下積みの重要性を自覚し、上級生並に幹部としての責任をはたす心がけこれ即ち社会におけるそれに通じていますし、最後までやり通そうという決心とファイトを以て、頑固に貫徹するには、悪条件であるだけに最良の場でありチャンスであるということを自覚して頂きたいのです。
要するに今年は苦難の年なのです。体当たりの気持ちでやって行きたいと思います。部員はすでにその気持ちになって居る事と思います。
先輩諸氏にも、何とぞ部の現状をご理解の上よろしく激励、ご指導の程をくれぐれもお願い申し上げます。
「なせばなる なさねばならぬ何事も ならぬは人の なさぬなりけり」
昭和29年春 |