| 私は都々逸にとても興味を覚えた事があり思い切ってヤボな都々逸で4年間を回想してみたくなったのである。
♪初陣飾ろとコートに立てば
「オイ声を出してしっかり行け」「ハイ!」
「オイ勝敗はいいから思い切れ」「ハイ!」
白いラインが目にしみる。
私がはじめてレッド・ブルーのユニホームを着て慶応の選手としてコートに立った時のことである。今思い出してみてもキューと身の引き締まるような一瞬だった。そしてテニスが生活の全ての様な1年間が過ぎた。無我夢中だったわけである。
♪いろはのいの字は
命のいの字
それで勝敗〔いくさ〕は命がけ
こんな真剣な気持ちを抱いた時もあったらしい、そして強烈なライバル意識も出て来た。
♪あいつが勝つなら
俺だって勝つぞ
どうしてあいつに負けらりょか
と、なかなか厳しい。自分でも恐ろしくなる程だ、しかしそうゆう無我夢中の時代にも笑いがあった。
♪貴男チョットと
呼ばれてみると
ズボンの尻が破れてた
あまりイカサない話だ・・・・。
そろそろ合宿や試合も慣れて来た、苦しみも多いが楽しい笑いもある男だけの生活が始まる。 東京を汽車で発つところからはじめよう。
♪遠い試合にホームまで送り
「貴男頑張って来てネ」「うん」
「貴男体に気を付けて、お手紙下さいネ」「うん」
「君も気を付けて。すぐ帰ってくるから淋しいだろうけど我慢してくれ」「エー」
フンしょってるのバカヤローと舌を出す。
と、こんな光景もちょいちょいお目に掛かり友達の彼女の差し入れを複雑な気持ちで摘んだものだ。さて中には行き先に思う人が待っているような運のいい男もいる。
♪ベルが鳴りましたテニスの恋路に
せき立つ胸に
エーじれったい ベルの音
しかし宿に入ってしまうと全ては終わり頭の中を眠る事と食べる事が支配する生活が始まる。
♪俺も食うから
お前も食べろ
下痢の薬はたんとある
♪疲れた体で
フトンに入りゃ
夢を見る間も惜しくなる
しかし不思議なもので長い付合だとこんな現象も起こって来る。
♪あいつの寝言と
こいつの鼾
これを聞かぬと眠れない
そうして数日たつと睡眠と食欲の他にもう一つの楽しみが増える。それは外出許可である。禁酒がちょっと残念であるが
♪外出許可で
勇んで出ると
どうして女はこうきれい
これも不思議なものである。そして行く先は大体同じような所やはり悩ましいネオンの色に誘われるのか。
♪あの女(こ)がいいと
勇んで行くと
すでに先輩横に居る
先輩はやはり先輩だと思いながらジュースにこっそりウィスキーを入れてもらってヤケジュースでしぶしぶ帰るせつなさ・・・・
そうこうしているうちに2,3年は過ぎたまには試合の勝利にも酔う事がある。
♪痛いと云う程
つねっておくれ
夢か眞かこの勝利
こうなると勝負はやはり勝つ為にあるのかもしれない・・負けるとこうなるからである。
♪お前が泣くなら
俺だって泣くよ
どうしてマッチがきまらない
さみしいものである・・・・
そして4年になった。すぐ就職試験である。又苦しむ。そしてそのあとにはよろこびがあり、つくづく先輩のありがたさをかみしめる“ありがたや、ありがたや”である。そして卒業・・・
♪教授の顔は
忘れても
どうしてテニスが忘れらりょ
こんな気持ちである。全く下らん私の回想になってしまったが、私は人一倍慶応の軟庭部を好きだった。ちょっと忘れられない、そして一つ死ぬまで愛してやろうと決心したのである。
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